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都庵

現在は「妖怪アパートの幽雅な日常」「The MANZAI」の女性向け二次創作等の物置。オフラインの自家通販もやってます。

   

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3/16新刊「Another」サンプル

こんにちは。あみやです。
とりあえず、新刊のサンプルを上げに来ました。
表紙はこんなのです。



A5/44P/400円
千晶の視点の千夕本です。
冒頭部分のサンプルは続きからどうぞ。
お品書きは直前にUPします。

スペースは
3/16 HARUCOMICCITY19
東5ホール「ひ」21b【都庵】妖アパスペース

これからチラシの小話考えます。


PS
通販、本日(昨日)すべての発送を行いました。メール便の方は二・三日でつくはず。
現時点で入金が済んでない方はキャンセル扱いになります。
その分は会場搬入しちゃいますのであしからず。






拍手[3回]





 二月の初旬、受験シーズンまっただ中な今、高校三年生の俺の生徒達は、登校日以外に学校へ来ることは無くなっていた。
 受験組は試験勉強にいそしんでいるし、受験の終ったものは少し早い羽伸ばしを満喫中といったところだろう。
 三年C組の担任である俺はというと、三年の登校がなくなり、受け持ちの授業が減ったぶん、少しは仕事が楽になってくれりゃいいものだが、卒業式だ入学式だと行事が次々押し寄せてくるおかげで、いつも以上に仕事が山積みという状態だ。
 大学受験に失敗した奴のフォロー、就職組でまだ決まっていないヤツの面接対策等で、今日も午前中がつぶれてしまった。
 まさに目が回りそうなほど忙しい日々といったところか。
 俺は昼飯後の習慣で、上着をひっかけ校舎の屋上へと向かった。この学校へ赴任してきてから、食後の休息は天候が悪くない限り、必ずその場所へ足を運ぶことにしている。
 今日は気温こそまだコートが必要だが、多少風はあるもののほとんど雲が出ていない。日陰は寒そうだが、日向で一服するくらいならいい気分転換になりそうだった。
 屋上の扉を開け、すぐ横にある給水塔の階段へ手を掛ける。登りきると、日差しで多少温まったコンクリートの上に腰を下ろし、煙草に火をつけた。
 大きく煙を吸い込み、肺を満たしてから煙を吐き出す。吐き出した煙はすぐに冷たい風にさらわれて消えた。
「……不味いな」
 調子のいい時はすごく美味いと思う煙草だが、調子が悪いと途端に不味く感じる。最近ずっと、俺はこの不味い煙草を吸い続けていた。
 原因はたぶん、疲れだろう。最近寝ても疲れが取れない。眠りも浅くなってきていて、朝起きるのがひどく辛い。
『だったら吸わなきゃいいのに』
 不意に慣れ親しんだ声が聞こえた気がして梯子を振り返るが、もちろんそこには誰もいなかった。
 この場所は、休みに入る前まで一人の教え子と共有していた。
 その生徒は、名前を稲葉夕士という。稲葉はクラスの男子が学食で昼食を済ませる中、律儀に弁当を持ってきていた。両親を事故で亡くし、今は三食賄付きのアパートに暮らしており、その賄さんが毎日稲葉の分の弁当を用意してくれるらしい。
「学食で買ってもいないのに食堂で食うのもちょっと気が引けるし、クラスで食べると、田代達に横取りされて俺の食う分が減る。激ウマなの知られてから、あいつら容赦がねぇ……、だからここが一番なんだ」
 と、本人が言うように、稲葉の弁当はいつもバランスを考えられた美味そうなものだった。(実際食ったことがあるが、実に美味かった)見た目もさることながら、季節も重視した弁当で、たぶん冷凍物は一つも入っていないのだろう。女子が狙いたくなるのもわかる。
 稲葉は、俺の隣で賄さんが手間を惜しまず作ってくれた弁当を、それはそれは美味そうにがっつき、食後は俺とだべるか読書にふけった。
 そんな昼休みを二年の夏から続けていたが、稲葉が都内の大学を受験することになり、今年に入ってからこの給水塔の上は、ほぼ俺一人の専有となっていた。
 当初、ここに目を付けたのは一人になれそうだったからなのだが、稲葉は傍にいても存在が邪魔にならず、逆にいい気晴らしになってくれていた。
 そんな稲葉のいない給水塔の上、俺は煙草の火を携帯灰皿でもみ消した。頭の奥で忌々しい偏頭痛が始まったからだ。
稲葉がいたころは、ひどくなる前に特殊な『つぼマッサージ』や本当のマッサージをしてくれて、点滴を打ちに行くようなことは無かったが、今日は帰りに寄ったほうがいいかもしれない。
「そういえば、前の学校の時はよく帰りに点滴打ちに病院へ寄ってたっけか……」
 いつのまにか、自分は随分教え子に甘えていたようだ。
「駄目だな……」
 稲葉はもうすぐ卒業する。ここは当初の目論見通り、俺一人の場所になる。目的通りのはずなのに、寂しく思うのは、冷たい風のせいということにして、再び煙草をくわえた。
 二本目の煙草は、一本目よりさらに不味くなっていた。
「…………都合よくアイツ学校来ねぇかな」
 確か稲葉の受験日は先週。そろそろ大学の合格発表が行われる頃だろう。合否がわかったら、報告に来るよう生徒たちには言ってある。稲葉も近々報告に来るだろう。
「どうせなら今来いよ、稲葉」
 『言霊』を信じているわけではないが、口に出してつぶやいてみる。無性に稲葉の顔が見たい気分だった。
「呼んだ?」
 独り言に返事が返ってきて、俺はあわてて振り返った。そこには、階段を上りかけの稲葉が、顔を出していた。
「え? 本物?」
 思わずこぼれた言葉に、稲葉は苦笑しつつ給水塔の上に足をかける。
「ちゃんと足あるぜ、幽霊じゃねェよ」
 制服の学ランにダウンのコートを羽織った姿で、稲葉は現れた。
「今日合格発表だったから、見に行ったその足でこっち来たんだよ。まず、千晶に報告しなくちゃってさ。ちょうど昼時だったから、ここかなぁ~って思って上がってきてみたんだけど、急に名前呼ばれてちょっとびっくりしたぜ」
 びっくりしたのはこっちの方だ。まさか本当に現れるとは思ってもみなかった。おかげで、偏頭痛がどこかにふっとんでしまった。
「そうだったのか、で、結果は?」
 まずは報告をせかすと、稲葉は、黙ってVサインを作った。
「合格。いや~、今まで生きてきた中で一番勉強したぜ」
「良し! よしよし、よくやった!」
 俺は稲葉の体を引き寄せ、頭をグリグリと撫でてやった。稲葉の頭は毎朝風呂に入るらしく、髪の毛がサラサラでさわり心地がいい。いつもなら「やめろよぉ~」と拗ねた声を出してきそうなところだが、今日は俺の顔をじっと見ていた。
「どうした?」
「それはこっちのセリフだ。顔色悪いぜ、千晶。体調悪いだろう」
 ズバリ言い当てられ、俺の動きは一瞬止まる。
「……正直さっきまで最悪だったが、今はお前が報告に来てくれて気分いいぞ」
「肩の荷が下りたってか? そりゃ滑り止め受けてなかったから、あんたはひやひやものだったかもだけど……」
「それもあるが、丁度お前に会ってリフレッシュしたいところだったんだ。仕事が山積みで、いいかげん気力がつきかけていた。頭痛もあったんだが、お前の顔見たら治っちまったよ」
 稲葉は、少し表情を和らげ俺の肩に手を乗せ、力を込めた。
「お疲れさん。肩コチコチだな。今楽にしてやるよ」
 いたわる言葉とともに、稲葉は俺の胸に掌を押し当てた。
「つぼマッサージか?」
「少しだけ、な」
「普通のマッサージだけでも十分助かるんだが」
「アパートに帰れば、賄いさんが合格祝いにおいしい料理いっぱい用意してくれてるから大丈夫。それに、白い顔のままの千晶に何もしないで帰る方が、いつぶっ倒れるか気が気じゃないっての」
「……そうか」
 俺は素直に稲葉の優しさに甘えることにした。
 稲葉の『つぼマッサージ』は、本人の言葉によると、手をあてた所から俺の体のダメージを吸いとる技で、つぼを刺激して体を治しているわけではないらしい。
 俺のダメージを吸い取った稲葉は「体が重くなる」そうだが、食べれば治るので、安心してつぼマッサージされていろと言う。
 このつぼマッサージのおかげで、俺はずいぶんと助けられたものだ。もともとの血が薄く貧血症なのに加えて、昨年の夏には強盗事件に巻き込まれて大きな怪我もした。稲葉は見舞いに来てはこのマッサージをしてくれて、俺は予定より早く退院することができた。
 今も、次第に体が軽くなったように感じる。手が触れた部分から体も温かくなった気がするのは、血行が良くなっているのかもしれない。
「こんなもんかな」
 ふぅと一息ついて稲葉が顔を上げた。
「すまんな。ありがとう。楽になったよ」
「おう。よかった。んじゃ、次は肩揉みな」
 稲葉は俺の後ろに回って膝立ちになり、首筋から肩にかけて、ぐっと指圧した。痛すぎない、ちょうどいい圧加減が気持ちいい。
「お前……今日は俺にサービスしすぎじゃないか?」
「ん~……まぁな。今日は久し振りだし、千晶にはなるべく元気でいてもらわないと寝覚めがわりぃんだよ。こういうことできるのも、あと少しだしな……」
 そう、こうやって過ごせるのもあと片手の数ほどだろう。寂しいものだと思う。生徒の巣立ちは喜ばしい事だが、この存在が戻ってくることはもう無いのかと思うと、素直に喜べない自分がいて、小さく苦笑する。
 まったく、どこまで歳の離れた教え子に依存していたんだか。
 稲葉も、なにか思いつめたように無言のままマッサージを続けていた。きっと稲葉も、巣立ちを寂しく思ってくれているのだろう。
 なんとなく、しんみりしてしまった空気を換えようと、俺は沈黙を破った。
「稲葉は、卒業旅行の計画とかはないのか?」
「あぁ、あるある。長谷と……あ、学園祭に来てたヤツな。あいつと3月の半ばにツーリングで、海沿いのキャンプ地を転々とする予定なんだ。それまでに金貯めようと、入試終ってからは絶賛バイト中。今月いっぱいは登校日以外昼間のシフトがびっしり入ってるぜ」
 稲葉のアルバイト先は小さな運送会社だ。高校に入ったころから届けを出しており、許可が下りている。
「張り切りすぎて怪我するなよ」
「おう、その点は気を付ける。千晶の方こそあんまり無理するなよ? どっかでぶっ倒れてましたなんてことになったら、笑えないからな」
「……それは善処する」
「……マジで頼むぞ。あ、そうそう、こないだ配達先で前ウチの学校に来た千晶のダチ、スティングレーさんに会ったぞ」
 スティングレーは学生時代からの悪友で、稲葉が二年の時の予餞会の際に、美那子と一緒に舞台を手伝ってもらったことがある。大した接触時間はなかっただろうに、よく覚えていたものだ。
「へぇ、すぐにわかったか?」
「いや、俺ははじめ全然気付かなかったんだけど、向こうから『あれ? 君、チアキの生徒でしょ』って言ってくれて。俺もよくよく顔を見て、あぁあの時の! って思い出してさ。千晶、あの時の写真スッティングレーさんにあげたんだって?」
「あぁ……、そういや渡したな。生徒会がわざわざスティングレーと美那子用にも写真を焼きまわしをしてくれて……」
「その写真に俺も映ってて、覚えてたらしいよ」
 言われるまで忘れていた。その後の打ち上げの際、その写真を渡して、写っている生徒を肴に飲みながら稲葉のことも紹介していた。
「そうか。……あいつ、なんか変なこと言ってなかっただろうな?」
 軽い気持ちで聞いたのだが、稲葉の手がピクリと止まった。
「あ、ん~~…………まぁな」
「おいおい、歯切れが悪いな。なんか変なことあいつに吹き込まれてねぇだろうな」
「別に変なことじゃねぇよ……たぶん。……そんなことより、千晶肩凝りすぎじゃね? ちゃんと寝てんの?」
 そう言うと、再び肩の揉みほぐしに戻った稲葉。そうあからさまに話をそらされると、気になるってもんだろう。
「何話そらしてるんだよ。コラ。吐け」
 俺は肩にある手を掴んで稲葉を引き倒し、脇腹をくすぐった。人間だれしもここが弱い。案の定、稲葉も体をひねって転がった。
「うわっ、たんま、わはっ……ちょっ……ソコは勘弁!」
「じゃぁ言うか?」
 手を止めて返事を待つ。稲葉は俺から目をそらしてしばらく考えた。
「ん~…………口止めされてるから、やっぱり内緒!」
 言うが早いか、稲葉は再びくすぐられまいと、そそくさと階段の方へ逃げた。どうやら分が悪いと踏んだらしい。
「じゃぁな、千晶! 外まだ寒いんだから、あんま長居すんなよ」
 安全な距離を稼いで稲葉が吠えた。
「はいよ。お前も気をつけて帰れよ!」
 稲葉は了解と笑顔を残し階段を下りて行った。
 どうやらスティングレーの方を問い詰めなくてはいけないようだ。幸い、スティングレーとはあと数日もすればエヴァートンのバレンタインイベントで顔を合わせる。
「……まさかあいつ、あのチャリティーのこと話してねぇだろうな……」
 陽気でおしゃべりなスティングレーの顔を思い浮かべて、可能性を考える。
「…………まさか、な」
 携帯を取り出し、直接確かめようとしたとき、予鈴のチャイムが響き渡った。
「おっと、次は二年の授業だ」
 俺は急いで給水塔を降りた。稲葉のおかげで体が軽い。
 誰も見ていないことをいいことに、一段飛ばしで階段を降り職員室へ戻った。
--------------------
こんな感じに続きます。
千晶が夕士の前では少し大人っぽく、
コアのメンバーの前ではちょっとそれなりな感じになってるはず。
昔書いたIf~graduation~の「カウントアップ」「カウントダウン」(Reprintにも収録)
の千晶バージョンです。
夕士バージョンとの被りは途中少しと最後だけ。
これだけで十分読めるはず。
そのうちpixivに「カウントアップ」と「カウントダウン」だけUPすると思います。
絶版するまでに書けばよかったんだけど・・・思いついたの最近なんだよ・・・。
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