新刊サンプルです。
なんか丁度よく切れるところが見つからず
中途半端ですが、とりあえずアップしておきます。
結局、コピー誌は無理そうなので
今ペーパー小話考えてます。
こちらはもちろん千晶×夕士で。
(長くなっちゃったらコピー本になるかもだけど)
直前にスパークの詳細ご連絡いたします。
スパークはプチオンリーがたくさんあるようで
楽しそうですね。
誰かやってくれないかな……香月作品プチオンリー。
参加サークル一つは確実ですぜ。(苦笑)
来年5月東京のスパコミとかどうですか?
チラシとか配ってみたいな~
記念アンソロジーとか作って楽しみたいな~。
誰かサイトとか作ってくれたら主催考えるんだけど。(おい)
ドリーマーでスミマセン。
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[13回]
■イタイ愛情■
美浦の事件の翌日、頭にテーピング、左肩と腕を固定された俺を見て、長谷は目を見開き真っ青になった。
「俺があんとき、どれだけ肝を冷やしたか……」
往復ビンタ後、長谷ははき捨てるように言うと、腫れあがった俺の頬に手を当てた。
「それにしても、きれいな手形が残ったな」
「おかげさまでな!」
思いっきりはたかれたおかげで、一瞬目の前に星が飛んだほどだ。
「ビンタで傷は残らねぇだろうが、こっちはどうなんだ?」
長谷は手をこめかみの傷に移動させた。五針縫ったところだ。
「これっくらい、痕にはなんねぇよ」
「……だな。肩は痛くないか?」
「痛み止め飲んでるから、そんなに痛くねぇ。ま、片手じゃ何かと不便だけどな」
笑って見せると、長谷はやっと安心したようにため息をついた。
詩人が「イタイ愛情だねー」と表現したとおり、本当に長谷の愛情は痛かったが、それも俺を思えばこその親愛の証なわけで、俺は少しだけそのイタイ愛情が嬉しかった。
だが、嬉しかったのはここまでだ。
「じゃ、今日はパパと遊ぼうなクリ~」
長谷は早速『休日のパパ』の熱演に入った。クリを抱っこして、高い高いをする。クリは喜んで手をパチパチとたたいた。
「ママは怪我で抱っこできないからな~」
「だから、誰がママだって!」
そんないつもの漫才のようなやり取りをしていると、台所から甘い匂いが漂ってきた。
「みんな~、おやつよ~!」
秋音ちゃんが運んできたのは、どでかいイチゴのショートケーキと、イチゴの杏仁豆腐だった。
「長谷くんがもってきてくれたイチゴで、るり子さんが作ってくれたの~」
秋音ちゃんは目を輝かせて、ケーキナイフを握り締めた。
そういや、今日の長谷の手土産にイチゴの箱があったっけ。長谷はアパートに来るたびに何か手見上げを持ってくる。
「長谷くんは甘いの大丈夫だったよね」
「はい。大の得意、というほうじゃないですが」
「OK、夕士くんも好きよね」
「るり子さんの作るもんは何でも好きっス! あ、でもさすがに秋音さんほど食えねぇんで人並みでいいっス」
「あら、遠慮しなくて良いわよ。あたし用には、るり子さんが今イチゴシフォン焼いてくれてるから」
オホホホホと笑いながらケーキを切り分ける秋音ちゃん。確かに、秋音ちゃんの食欲を満たすにはカットしたケーキ1つじゃ、足りないよな。
そんな妙なことで納得している間に、声を聞きつけた住人達も続々と集まってきた。
「へぇ、ショートケーキか。久々だな、こんなの食うの」
ひとっ風呂浴びてきたのか、髪の毛を乾かしながら入ってきたのは画家。
「わ~、ケーキだ~! 杏仁豆腐もイチゴソースでキレー♪ 今日は紅茶にしよう~」
そう言いながら台所に向かうのは、今日も下着のようなキャミソール姿のまり子さん。
「紅茶にはブランデーかねぇ~」
と、その後に続くのは詩人。またアルコールを入れるのか、ここの大人どもは。
「いいね~、たまには紅茶にブランデー。甘いのに合うよねぇ~」
のほほ~んと席に着く佐藤さん。庭弄りをしていた山田さんも加わって、だいたいいつものメンバーが顔をそろえた。
あったかい紅茶にレモンを加え、いい香りを楽しみながらケーキをいただく。
「じゃぁ、食べる間はママのところいくか」
クリを抱いた長谷は隣に座るなり、クリを俺にパスした。まぁ、座ってる間ならクリを乗っけていても大丈夫だから問題ないが、俺はてっきり長谷が自分の膝に乗せるものだと思っていた。
「だから、ママじゃねぇっての、クリ落ちるなよ」
テーブルにかじりつき状態のクリに注意するが、クリの視線はケーキに釘付けだった。心なしか、目が輝いているような気もする。
「よ~しクリ、あ~ん」
隣から長谷がクリにクリーム付きのイチゴを食べさせた。
もくもくもくと口いっぱいにほおばったイチゴを食べ、クリは手をたたいて「もっと」とせがんだ。
「クリたんイチゴが大好きだもんね~、よかったね~クリ」
ご満悦のクリに、反対隣に座った詩人も、イチゴを食わせた。
「じゃぁ、イチゴだけトッピング追加ね」
その様子を見て、秋音ちゃんが硝子の器にイチゴを盛って持ってきてくれたところで、俺たちもケーキに手をつけた。
ふわっふわの卵たっぷりシフォンが三層に別れ、合間に甘さを抑えたクリームと、イチゴスライスがたっぷり入っている。そしてデコレーションは外側に丸のままのイチゴ、内側には角切りにしたイチゴが、宝石箱をひっくり返したみたいにたっぷりと散らばっていて、どこを食べてもイチゴを楽しむことができる、イチゴ主役のケーキだった。
「美味い! 甘すぎず、酸っぱすぎず!」
「あ~、たまには良いな~ケーキも」
「ん~、オイシ~」
「あたしコレだったらホールでもお代わりできる~」
あったかい紅茶にレモンの柑橘がアクセントとなって、甘いケーキに良く合うし、今日もアパートの三時はほっこりとのどかだった。
「稲葉、右手だけじゃ食いづらくないか? ほら、食わせてやるよ」
長谷が一口大に切り分けたケーキを差し出してくる。
「いや、俺だけでかいフォークだから、以外と大丈夫」
そう、昨日怪我をして帰ってから、るり子さんは俺が右手でも食べやすいように色々工夫してくれている。おかげで、介助無しでなんとか生活できていた。
さすがに着替えるのは時間がかかるけど、包帯巻くこと以外はまぁなんとかなるもんだ。
「いいから、ほら。あ~ん」
口元に突き出され、俺はしょうがないなと口を開いた。長谷の野郎、嬉々としやがって。ん~でも、やっぱイチゴケーキ美味~。
つかの間幸せに浸っていると、膝の上のクリが俺の服を引っ張った。
「どうした?」
クリは口が利けない。だから行動で自己主張する。
クリは自分の持っているフォークをケーキにぶっ刺し、持ち上げると、ずいと俺の口元に突きつけてきた。
「あはは、長谷クンの真似してるヨ」
「ほら、あーんって言ってるぞ夕士、食ってやれよ」
はやし立てる大人ども。俺も、食ってやりたい。食ってやりたいけど、さすがにそれはでかすぎる。どんだけ口を開いても、大人の拳骨ほどのかたまりは、口に入らないって!
「クリ~、それはちょっとでかいな~。せめて半分に切るとか……」
俺はなんとか一度皿に戻すようクリに説得を試みるが、クリは聞かなかった。どんどんケーキを押し付けてくる。
「稲葉、早く食べないと崩れるぞ。食ってやれって」
長谷に小突かれ、俺は覚悟を決めて口を開けた。
ええい、もう顔に付こうがどうにでもなれだ。
一口、なるべく大きな口で食べるつもりで口を開けたのに、かじりついた先にはフォークしかなかった。
「ん?」
恐る恐る下を見ると、案の定、上を向いたクリのおでこのあたりに、イチゴケーキが二つに分裂して乗っていた。
「わ~~~~~~~!」
「クリー!」
「あらあら」
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という感じで続いていきます。
アパート日常話に近いですね。(苦笑)
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